会社入って5kg太った

グ〜〜〜という自分のお腹の音でハッと我に帰り、時計を見る。朝からずっと楽譜を書いていた。底にコーヒーのカスが凝り固まったコップを無意味に振ってみる。もちろん何も起きやしない。外は雨が降っている。しわくちゃの布で指板の上を拭き取って、マンド…

渦の中

六ヶ月マッチングアプリをやって会えたのは3人だけだった。どうしたってもう何も言い訳ができないほどに、自分には価値がないないことが証明された。最後に会った女はじゃが芋みたいな顔をした太った女だった。女は、安っぽくて甘ったるい、最低な匂いを漂わ…

うっすいカツ

夕焼けは太陽が沈む時に空が赤くなる現象で、小焼けは太陽が沈んだ後に空が赤くなることをいうらしい。仕事帰りに電車の中から見る空の色は、子供の時に友達と遊んだあとに見た空の色に似ている。「今日の晩飯なんだろう」とサッカーボールを蹴りながら、弟…

音楽における”景色”が見えるとは?

「ピアノの横で待っています」 改札を抜けて、あたりを見渡す。雑踏の中にポツンと置かれたピアノ、その横に立ち尽くす一人の女性。紺のロングスカート、白のパーカー、ブラウンのコート。髪は後ろで一つ結びにし、肩から掲げている小さなバッグが蛍光灯の光…

ハイライト2023

"> サイドミラーと右後ろを確認し、アクセルをひねって前に出た。アナログのタコメータが一気に跳ね上がる。凍てつく師走の風が上着を貫いて肌に突き刺さる。シフトダウンをして体勢を少し左に傾ける。どう読むのかわからない地名の書かれた看板が後ろに過ぎ…

日曜の夕方

昼下がり、さすがに腹が減ってきた。朝から何も口にしていない。ギターをケースにしまい、パジャマの上に黒のウインドブレーカーを着て外に出る。お散歩日和のいい天気だった。信号を待っていると、ドライブデート中のカップルが見えた。黒い大きな車だった…

秋に落ちていく

柔らかい太陽の光が地面に落ちていた。いつの間にか夏が過ぎ去り、季節の色が変わっていた。秋はいつも、落ちていく。汚れたスニーカーでくしゃくしゃになった落ち葉を踏みつけた。冷たい風が顔に吹き付けて、顔をすくめた。春は来る、夏は過ぎる、秋は落ち…

FUCK

マッチングアプリを始めて、早一ヶ月。10人ほどとマッチングするも、メッセージ以上の進展はなし。いい感じだったのに突如ブロックされたり、返信が来なくなったりと、まともな奴が一人もいない。金を払ってストレスを浴び続けている。金を払って大して可愛…

25になること

恥も外聞も捨て、マッチングアプリを始めた。先月、齢をまた一つ更新し、25歳となったわけだが、今ままで臭いものには蓋をしろ精神で、ずっと見て見ぬ振りをし続けて来た自分という存在に、如何にもこうにも、向き合わざるを得ない年齢になってしまった。24…

2023/3/12

春から関西へ行く。引越しに向けて、部屋を片付けた。いらないものを捨て、本はほとんどブックオフへ売った。楽器は先に出してしまった。今、部屋にあるのは、必要最小限の荷物だけ。こうしてみると随分広く感じる。 先日、野暮用があり、後輩の家へ行ったら…

日の目を見ない

夜風が気持ちいい季節になってきた。風呂上がりに低脂肪牛乳をパックのままがぶ飲みし、軽くげっぷをする。ヤニ臭いタオルで頭を拭きながら、パンツ一丁で、ベッドに腰掛ける。暦はいつのまにか10月で、6畳一間の部屋には換気扇の音だけが響いている。久しぶ…

2022/7/10

夜の静かな風が吹く頃に、信号を待っていると、隣にいた女子高生たちが、恋バナをしているのが耳に入って来た。「わかる、顔がいい」、「〇〇くん、いいよね」。などと。買ったばかりの乾電池とファブリースの液体をポケットの奥に押し込んで、いくら押し込…

2022/6/3

夕立の中、傘をさし便所へ。実験室にはトイレがなく、用をたすには一旦外に出て、隣の建屋に行かなければならない。眠気と疲労が蓄積し、全身がどんよりと重かった。珈琲と油が混ざったような匂いの不健康な尿が、真っ白な便器に迸る。軽く手を洗い、もうか…

2022/4/9

自転車を漕いでいた。少しだけ汗をかいた。過ぎていく光景。桜が、うららかな春の風に揺れていた。ミニスカのお姉さんが、カゴのない僕のチャリを見て、笑っていた。ブックオフを探索したが、目当ての本は見つからず、自販機で100円のメロンクリームソーダだ…

2022/2/26

代わり映えのない日々を送っている。エアコンが付かないので,こたつで凌いでいたが、とうとう、こたつも壊れた。蛍光灯は完全に死んだ。就活をしている。リモート面接のとき明らかに俺の部屋だけ暗くてとても恥ずかしい。少しずつ暖かくなってきた。厳しい…

hぁあ

研究で過去最大級の壁にぶつかり、ずっと心に岩がのしかかっているような、そんな一週間だった。壁を一つ超えたと思えば、また一つ壁が現れて、いつまでたっても目の前が晴れ渡ることはなかった。 ちょっと可愛いファミマの店員は釣銭をSM嬢の勢いで投げ出す…

ほつれた土曜日

土曜を潰された憤怒と疲労にため息を吐き伸ばし、全くもってガス欠状態の体に熱いカフェラテだけを「燃料」として流し込むと、財布と買い物袋をポケットに買い出しに出かけた。吹き付ける風はひどく冷たいくせに、ショーウィンドウの明かりや、それに照らさ…

三十九度射精

美人医師がワクチンの問診をしてくれている間、相手が座りこちらが立っているのをいいことに黒いブラウスの胸元ばかりチラチラと眺め、「こりゃあマナイタだな」などと下品なことを思いながら次に左手薬指に視線を移し身辺調査を推し進める。 注射ブースにい…

終わり

終わり。おナニーをした後のニコチン誘惑タイムに負けた。二日ぶりの煙草は大したうまくなかった。のくせに、二本立て続けにせせら吸い、うーん、負けても地獄だなと思った。罪悪感と自己嫌悪と、その他諸々の、悪徳感情が、ふつふつと煮え立っていた。最悪…

二日目

地獄だ。初日さえ乗り越えれば余裕だろ、と思っていたが、全然そんなことはなく、これっぽっちもニコチンホールの苦しみは引くことはないどころか、ますますその苛烈さを増している。昨日はぼんやりとしていた「輪郭のない痛み」が、はっきりとした実像とし…

禁煙初日

最後に煙草を吸ったのは、今日の午前1時。つまり半日以上の禁煙に達したことになるが、これは今までの歴代最高記録である。つらいか、そうでもないか、と言われたら、「尋常じゃないくらいに辛い」。一日中煙草のことを考えていたと思う。脳みその一部に穴が…

本格的に寒くなってきた。鼻水がダラダラと垂れてくる。最悪の一週間を終え、何一つ満たされないまま、この時間を迎えた。転調した季節に、取り残された俺。570円の弁当と、トイレットペーパーの山。 どうしようもなく疲れたので、今日は、どうしても晩飯を…

ハードボイルド

吸殻で溢れかえったマグカップに、そっと灰を落とし、汚れた換気扇に向かって、薄い紫煙を吐き伸ばす。何もやることがなく、煙草を吸い続けるだけの休日。窓の向こう側では、7日分の洗濯物が秋晴れの陽気を目一杯に受け止めながらゆらゆらと揺れている。芳香…

もぐら、さくら、まんこ

何日か前に、ギターの弦が切れてしまい、もうかれこれ一週間以上、想像性のかけらもない惰性的な日々を送っている。髪の毛は、三ヶ月切っていない、当たり前のようにボサボサだし、汚いし、街ゆく量産型マッシュたちを見かけては、「俺はあんな量産品にすら…

メイド

社会人になった笹尾くんは、なにも変わっていなかった。といっても、最後に会ってから、二ヶ月しか経っていないのだから、当たり前と言えば、当たり前である。秋に社会人になった笹くんは一癖も二癖もある人間なのだが、彼に関しては、他にまた書こうと思う…

もはや歯を磨くごとき習慣に成り果てた一人ヌキヌキ作業を終え、後架にちり紙を捨てに行く。汚物を勢いよく投げ捨て、痰を吐いたのち、「死ね!」と便器に向かって無意味な言葉を添える。 今日は祝日だというのに、朝から研究室に行った。9月の終わりとは思…

本を読む

何のためらいもなく、Tシャツの袖をまくりあげ、横を向いた俺に、看護師のおばさんんは、一瞬、不思議そうにキョトンとした。注射の後に、15分ほど、広間で待たされた。坊主頭の精悍な医者が、モニターの中で副反応の説明をしていた。本を読む者、携帯を眺…

たまには昔話でも

彼と初めて会ったのは、3年前の春先だった。サークルの新入生会にやってきた彼は、明らかに他とは違う、禍々しいオーラを放っていた。メガネをかけ、エラの張った顔、小学生がシャーペンで適当に書いたかのような名状しがたい平均的な髪型、恰幅のいい体、ど…

夏でもなく秋でもない訳のわからない季節に悪態をつきながら、部屋の掃除をして、洗濯をして、買い出しをした。特にというか、本当になにもなく休日が終わってしまった。 それはそうと、最近、小・中学生ぐらいの時に聞いていた、2000年代Jpop/jRockがめちゃ…

hard to concentrate

帰り道、傘をささずに自転車を漕いでいたら、女子高生集団に爆笑された。ずぶ濡れ、メガネは曇っていて、Tシャツ一枚、彼女らは雨の中笑っていた。なぜか人間は、自分より弱いものを見て、笑う。 昨日は朝からWebインターンがあった。名古屋大院で化学を専攻…