三十九度射精

 

美人医師がワクチンの問診をしてくれている間、相手が座りこちらが立っているのをいいことに黒いブラウスの胸元ばかりチラチラと眺め、「こりゃあマナイタだな」などと下品なことを思いながら次に左手薬指に視線を移し身辺調査を推し進める。

 

 

注射ブースにいたのは50代くらいの、まるで腐り果てたパイナップルみたいに醜く肥えて膿んだクソババァで、舌打ちをしながら服を脱ぎ捨て、さっさと打ちやがれと言わんばかりの勢いで椅子に座る。ちっとも嬉しくない問答をした後に、注射を打たれた。その瞬間、「前とは違う」ことを確信した。一回目は刺された感覚がほとんどなかったが、今回は確実に痛かったのである。体が必死に抵抗しているのを感じた。

 

 

と言いつつ、「どうで大したことはないのだろう」と高を括り、その日はそのまま作業をした後で家に帰る。帰り道、煙草ついでに一応アクエリを購う。冷たい秋雨が降っていて、ハンドルを握る手がかじかんだ。

 

 

その後、寝る頃まではなんともなかったが、布団に入って5分としないうちに、急に身体中が震えだした。最初、単純に寒いのかと思い、暫時、胎児の体勢で布団にくるまっていたが、ちっとも暖かくなるどころか、むしろ震えは勢いを増していく。そこでようやく、あ、これは悪寒だなと思い、看護師のオカンからもらった解熱剤を内服する。

 

 

水族館で弟の目をくり抜いたり、マイルドヤンキーの顔面を殴り殴られまくるなどのひどい悪夢ばかり見て、夜中に何度も目を覚ます。朝起きると少し楽になっていて、窓を全開にし、陽気な光を浴びながら、至福の一服に浸る。

 

 

昼くらいに、またぞろ頭が痛くなってきて、体温の上昇を感じる。洗濯だけ済ますと、二度目の解熱剤を内服し、布団にこもる。寝てばかりでも飽きがこないのが、発熱の良いところである。季節はすっかり秋で、夕方、石焼いものアナウンスに郷愁をかられながらも、訛りがないことに気づき、現実と孤独に引き戻される。熱を測ると、三十九度を上回っていて驚く、しかし日課のズリセンを我慢することはできず、発熱の不快感を動物的快楽で塗りつぶす。

 

 

その、一見自棄酒のごとき放液が却って良かったようで、その後、ほどなくして、急に憑き物が落ちたように楽になった。オナニー様様である。