ねずみ

 

キッチンの下に、ネズミが、穴を掘っていた。アニメでしか見たことのないような、穴が空いていた。冗談じゃない、開いた口が塞がらなかった。

 

 

昼間に降った大雨のせいか、蒸し暑く、寝苦しい夜だった。深夜二時ごろ、ガリガリとキッチンの方から、耳障りな音がした。確実に、生命の気配がした。全身に、じっとりと冷たい汗が滲んだ。懐中電灯と、ゴキブリのスプレーを持って、恐る恐る音の方へ向かった。完全に眠気は覚めていた。

 

キッチン下の棚(包丁とかを入れる場所)はだいぶ前に、一度水漏れをしてから、ずっと使っていなかった。いわば開かずの間だった訳である。木が腐り始めていたのは、知っていたが、どうしようも無いので、2年ほど放ったらかしていた。

 

ゴクリと唾を飲み込みながら、棚を開け、懐中電灯を照らした。光が導いたのは、腐って黒く変色した木と、拳ほどの穴だった。穴は、床下の基礎部分につながっているらしく、下水のモッタリとした匂いが鼻を覆った。誰がどう見ても、ネズミの仕業であった。

 

とりあえず、朝まで待とこうかと思い、一度、布団に戻ったが、その後、静かになるたびに、またあのガリガリという、何かを削るような音がして、寝ようにも寝られなかった。仕方がないので、24時間やっている駆除業者を呼ぶことにした。深夜3時を回り、夜明け前の異様な暗黒と静寂が街を包んでいた。

 

 

そこからの話は、少し端折るが、4時ごろに胡散臭い業者のジジイがきて、ポイポイと忌避剤を撒いただけで(作業時間はおよそ3分)、4万ほどの金をぼったくられ(結局その後大家さんが払ってくれたが)、次の日、不動産の人間と、大家が、穴の様子を見にきて、とてつもなく不快な顔をして、「工事が必要です。また連絡します」とだけ呟いて帰っていった。

 

 

まぁそんなこんなで、時は過ぎ、忌避剤のハッカの匂いが充満した部屋で、ネズミが出るかもしれない恐怖の中、二週間ほど、過ごした。幻聴(ガリガリという音)というか、意識が過剰に張り詰めて、ひどい睡眠不足、不眠症になった。

 

 

もう少しまともな人間になりたいと思った。久しく音沙汰がなかったOLのブログが更新され、(元)彼氏との未練話をつらつらと書き始めた。ネズミと彼氏を、比べるのは些か失礼な気もするが、それらの憂鬱を並べ見てみると、ひどく笑えてきてしまった。俺も元カノがどうとか、言ってみて〜、腐った木と、ネズミの穴、童貞には、それくらいしか、話すネタがないのである。

 

 

追記

 

ちょうど空いていた3号室に引っ越しが決まった。明々後日、作業をする。次こそは、部屋を綺麗に保ちましょう(自戒)