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一昨日まで、帰省をしていたのだが、故郷はとても寒かった。飛行機を降りて、あまりの寒さに、両手を抱え込んだほどである。出迎えた親父と、親戚のおじさんは、二人とも長袖を着ていた。「元気だったか」と言われても、、、、「部屋にネズミが出た」。。。

 

 

車の後部座席、芳香剤の独特の香り、ワイパーに弾かれる雨粒と、窓に映る懐かしい街並み。

 

祖父の仏壇に手を合わせた後、ペットのカメに手を振る。最初は三匹いたのに、いつしか、1匹になった。

 

誰かと違って美形で高身長の弟は、サングラスをかけ、小洒落た洋楽を聴きながらが、自分の車を乗り回していた。弟の運転する車に乗る日が来るとは、まったく、年をとると、ロクなことがない。何も変わっていないと思っても、とんでもないスピードで時間は進んでいるものだ。駐車もできない、低身長兄貴は、エンジンの仕組みを語ることでしか、もうお前に張り合えない。もう、お前をおんぶすることも、お前にかけっこで勝つことも、ちんこの大きさで勝つこともできない。哀れなはずなのに、嬉しい気がしないでもない。

 

 

還暦を迎えた元ヤンの親父は、すっかり老人になってしまっていた。見た目は60には見えないが、九時前に就寝している時点で、もはやそれは、まごうことなき老人である。「孫を見るまで死ねない」と言われて、その場で殴り殺してやろうかと思った。こいつには、今なら何をやっても勝てそうなきがする。嬉しいはずなのに、悲しい気がしないでもない。

 

 

母さんは、あまり変わっていなかった。パワフルでよく喋るナースだ。いつか、ふらっと死にそうなオーラが漂っている。ダブルワークまでしてるのに、息子は、その金で煙草を吸っているのだから本当にいたたまれない。母さんの作った豚汁が好きで、いつも、家に帰ると作ってくれる。あったかくて、美味しくて、本当に素晴らしい。

 

 

最終日の帰り支度をしていたら、親父の部屋から、古ぼけたビデオカメラを見つけた。興味本位で、電源を入れてみたところ、中には、大昔の俺と弟が映っていた。八ミリフィルムと言うのだろうか、妙に色あせた、平成の匂いがプンプンとする映像だった。俺と弟は、家のベランダで、プールに入っていた。夏の暑い日、ピカピカとしたアザラシの水泳帽と、ぷにっとしたお腹、青空に響く甲高い声。もう20年も経ったのか、そんなことを思いながら、ニコチンで骨ばった自分の体を見つめた。

 

 

帰る日が、ちょうど誕生日だった。23歳になったらしい。空から見える故郷に手を振った。まだ、半数は超えていない。もうすぐ、1/4だろうか。ジェットエンジンは加速していく。何もかも置いてきぼりにして。海の上に、あざらしの少年が見えたような気がした。

 

こうして、自分を取り巻く、数少ない重要人物との、再会を果たし、また一つ、俺は、年をとった。恋人も居らず、ネズミの出る部屋で、毎日シコって、煙草を吸っている男が、23年間も生きてしまった。きっと何かのバグだろう。

 

 

 

追記

引っ越し完了。スマパンいいよね。