2023/3/12

 

春から関西へ行く。引越しに向けて、部屋を片付けた。いらないものを捨て、本はほとんどブックオフへ売った。楽器は先に出してしまった。今、部屋にあるのは、必要最小限の荷物だけ。こうしてみると随分広く感じる。

 

先日、野暮用があり、後輩の家へ行ったら、見知った顔の男女の写真が額縁に入れて飾ってあった。背景が背景だっただけに、その瞬間、全てを察して、特に何も聞かなかった。ガストで晩飯を食って、外に出ると、「なんであの写真のこと聞かないんですか?」と言われた。正直いうと、俺は飯を食っている最中にその写真のことを完全に忘れていた。「あぁ、あれね。もう聞くだけ野暮かなと思って」と言うと、「実は僕たち一年前から付き合い始めたんですよ」と。「そうなんだ。全然気づかなかったわ」。人の不機嫌や不調はすぐにわかるのに、こういうことに対しては本当に鈍感で、これだから俺ってダメなんだろうなぁと思った。春めく夜風はまだ少し冷たくて、後輩の顔は気のせいか、いつもより華やかに見えた。

 

真面目に大学に通い、大学院にも行った。学校の勉強はあんまり楽しくなかったが、主体的に学ぶ楽しさを知れた。外側から見た社会性と一般性は、高校の時より身についたと思う。だけれど、内側の深淵度は昔よりも深く暗くなった。中島らもは言った。「生きていてよかったと思える夜が一度でもあれば、それだけあれば、あとはゴミクズでも生きていける」。そんな春めくような夜を俺はまだ知らない。

 

この街には色々と世話になった。毎日下ばかり見て生きてたけど、卒業式のときぐらいは、堂々としていようと思う。もう少しで桜が満開になる。静かな諦観と根拠のない希望。桜はいつも俺にそんな心象を与える。