日の目を見ない

 

夜風が気持ちいい季節になってきた。風呂上がりに低脂肪牛乳をパックのままがぶ飲みし、軽くげっぷをする。ヤニ臭いタオルで頭を拭きながら、パンツ一丁で、ベッドに腰掛ける。暦はいつのまにか10月で、6畳一間の部屋には換気扇の音だけが響いている。久しぶりに、こんなゆっくりとした休日を過ごした。ふんわりとカーテンが揺れて、火照った体を、ひんやりとした風が過ぎていく。

 

オーケストラの活動や、学会の準備など、息をつく暇もないほど、せわしない日々を生きていた。特にこれといって、特別なことは何もなかった。恋に落ちるわけでも、友達が死ぬわけでもなく、たまに嬉しいことがあって、たまに腹が立って、でも平均したら、ぼんやりと、いつのまにかゼロになっているような、そんな感じの時間だった。

 

オーケストラの演奏会で、自作曲を2曲演奏した。そのうち一曲は、過去の失恋をもとに作ったもので、ダジャレからとった、ふざけた名前の曲である。演奏会には、当該女性も見にきてくれていたが、一言として、何も話しかけることはできなかった。あちらも、あちらで、相当気まずかったと見え、遠い場所で他の人と談笑をしていた。ドラマと違い、特に見せ場もなく、淡々と物語が流れ、静かに幕が降りていく。あるとすれば、モヤモヤとしたはっきりしない余韻だけ。遠くから盗み見た女性の後ろ姿は、前よりも少しだけ大人っぽく見えた。

 

 

洗濯物を干し終え、寝巻のまま、コンビニへタバコを買いにいく。一重まぶたの、廃棄弁当を食っていそうな陰気臭い女性店員に、タメ語を使われて、一瞬イラっとしたものの、「二つで」と返す。バカみたいに晴れた秋空が、全てを飲み込んでいく。俺はこれからどうやって生きていくんだろうな〜と急に哲学じみたことを考えながら、軋むペダルをゆっくりと踏み込んでいく。きっと、このまま日の目をみることなく、死んでいくんだろうな〜〜。タバコの息を吐き出して、揺れる洗濯物を見つめていた。

 

 

 

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