四年

 

クリスマスだ。マフラーを巻いたカップルが、夜の町並みを歩いている。小ぎれいなコートを着て、ぎゅっと、お互いの手を握りしめあっている。俺は、そんな景色を眺めながら、今年も、自転車を漕いでいた。スーパで買った、牛乳と鶏胸肉を、カゴに入れて、走っていた。ペダルに力を入れるたび、違法駐輪ステッカーが車輪に擦れて、変な音を立てる。痛いほどに風が冷たい。かじかんだ手はいよいよ感覚が薄れていく。無機質なハンドルを握りしめ、ふらふらと電気のつかない家に帰る。

 

 

 

四年間、という月日は、長いのか、短いのか。

 

 

サークル活動も終わり、残す所、あとは、卒論を書くだけとなった。ひとつの節目に、もう一つの卒論を書くことにする。

 

 

 

 

大学生活で、大学生活の四年間で、一人だけ、好きな人ができた。同じサークルに通う、同期の子だった。

 

 

初めて会った時から、ビビッとくるものを感じていた。ただ、一目惚れという感じではなく、喋れば喋るほど、彼女のことが、好きになっていった。

 

 

シャイなんだけど、たまに、大胆で、面白くて、よく笑って、ちょっぴりバカで、、、

 

 

本当に不思議な人だった。未だに、彼女の何が、そんなに、好きなのか、よく分からない。ただ、暇さえあれば、いつも、彼女のことを考えていた。数式をノートに書きながら、実験をしながら、楽器を弾きながら、皿を洗いながら。

 

 

 

2年の秋に、初めて彼女をデートに誘った。俺にとっては、人生の初のデートだった。二人で映画を観に行って、そのあと、近くの店でご飯を食べた。「グリーンブック」。黒人と白人の、友情を描いた、良い映画だった。緊張しすぎて、何を喋ったのか、全然覚えていない。でも、あの時みた景色は、ずっと脳裏に焼き付いている。隣に、世界で一番笑ってほしい人がいた。綺麗な、人だった。

 

 

 

そこから、何回も、デートに誘って、何回も、あの手、この手で断られた。もう、数は覚えてない。それくらい必死だった。

 

 

 

三年の秋、ようやく、2回目のデートにこぎつけた。俺は、ここで、前より少し、踏み込もうと思っていた。そして、実際、前回よりも深くアクセルを踏み込んだ。でも、その結果、わかったことは、どうやら、彼女は、「全く俺に、恋愛感情がないらしい」ということだった。ただの同期、ただの友達。それだけだった。

 

 

 

家に帰って、換気扇の下で泣いた。もう、諦めようと思った。でも、諦めきれなかった。勘弁して欲しかった。

 

 

 

こないだ、可愛がってる後輩の一人が、好きな人に告白をした。夜、泣きながら電話がかかってきた。ダメだったらしい。でも、本当にすごいなと思った。かっこいいと思った。初デートで告白。即決断、即実行。その行動力と勇気。感慨深いものがあった。

 

 

 

四年になると、コロナと研究室が始まって、本当に、それどころではなくなった。寝ても覚めても、研究の進捗ばかり考えて、全然、心が休まらなくて、遊びに行こうにも、行けなくて。気づいたら、タバコの本数ばかり、増えていった。生活がみるみる荒れていった。

 

 

 

 

サークル活動が、再開して、久しぶりに彼女に会った。まぁ変わらず、といった感じだったけど、俺の彼女を見る目は明らかに変わっていた。前ほど、心が、ドキドキしなくなっていた。あぁ、良かった。もう、きっと好きじゃなくなったんだと思った。

 

 

 

でも、なぜか、演奏会が終わったあと、彼女をデートに誘っていた。自分のことがよくわからなかった。ただ、演奏会が終わったというのに、なんかしっくり、来なかった。そこで気づいた。やり残したことが、あるからだと。

 

 

 

デートに誘うと、友達と4人で行こうよと言われた。二人で、行きたい。そう答えると、、25時間後に、まぁ、コロナだから、今はやめとこうと言われた。やっぱり、ダメなんだなって思った。こ「脈なし」で、検索したら、絶対に書いてることを、この四年で全て、網羅したと思う。もう、いいか、と思って、最後に、告白した。ラインで告白した。ダサすぎ。でも、会ってくれないんじゃしょうがない。もういいや、と思った。後悔はしたくなかった。まだ、返信はきていない。

 

 

 

 

この経験から学んだことは、たくさんあるが、一つ挙げるとするなら、「好きという気持ちは、そう簡単には覆らない」ということだろう。それは、自分自身から、そして、彼女からも、学んだことだ。また、前よりも少しだけ自分を客観視できるようになった気がする。自分を客観的に見るのは、すごい怖いことだけど、でも、そこに、何かしらの、次に繋がるものが、ある気がする。

 

 

 

四年もかかった、しょうもない片思いに、後、数時間で、かたがつく。すごく清々しい気分だ。やはり、思考を整理するのに、文を書くのは、非常にいい手段だと思う。コーヒーでも飲みながら、優雅に、残された時間を楽しもうと思う。

 

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 追記


ダメでした