君はいつも過度に未来を悲観して

 

水がなくなった。財布をポケットに押し込み、寝間着の上に、上っ張りだけを羽織い、壊れかけのクロックスを引っ掛け、外にでた。夕日は見えず、曇り空が頭上を覆っていた。近くのスーパーで水と、串団子を買った。無性に、甘いものが食べたかった。

 

 

 

レジを待っている間、前に並んでいた、30代ぐらいのカップルが、楽しそうに会話をしていた。お互いスーツ姿で、女の方が少し、身長が高かった。黒いハイヒールが、光っていた。

 

 

 

会計を済ませ、外に出ると、揚げ物を売っている出店の前で、小さな女の子が、車体を指差しながら、「かわいい」と言っていた。指の先には、猫のキャラクターが描かれており、お母さんは、それを聞いて、「かわいいね」と柔らかい笑顔を浮かべた。ズボンを逆さに履いていた俺には、何だか、それが、とても、遠い光景に見えた。

 

 

 

 

今朝、起きて、ツイッターを覗くと、フォロワーが一人減っていた。16が15になっていた。誰だろうと思い、調べてみると、同期の女の人だった。猫が大好きな、優しい人だった。

 

 

 

 

その人は、最近、よく、ツイ消しをしていた。たまに、ネガティブなことも、つぶやいていた。前までは、全然、ツイートなんてしていなかったから、余計に、目についてしまった。

 

 

 

 

その人は、公務員になるために、勉強に励んでいた。そして、いつも、過度に、未来を、悲観していた。何がそんなに、不安なのか、僕には、分からなかった。分かりたくもなかった。

 

 

 

 

「元気かい」とラインを送ろうかと、思った。でも、やめた。中途半端な優しさは、かえって、人を傷つける。元気でね、と祈りながら、朝、アメスピをふかした。いつもより、1グラムぐらい重たい朝だった。

 

 

 

 

 

こないだ、女性の先輩、二人に、飲みに誘われた。最近流行りの、リモート飲みというやつだ。くだらないことを、夜遅くまで、喋った。酒がなかった俺は、水を飲みまくった。おかけで、体が冷えた。

 

 

 

 

音楽の話になり、二人が好きな音楽を色々と紹介してくれた。なにかオススメの洋楽教えてよ、と言われ、俺は、つい、「人に音楽を勧めるのも、勧められるのも、あまり、好きじゃない」と言ってしまった。失言だった。でも、本心だった。しばし、仮想空間に、気まずい空気が流れた。

 

 

 

 

昔は、いろんな音楽を知っていることが、マイナーな音楽を聞いてることが、かっこいいと思っていた。だから、誰彼構わず、自分の好きな音楽を、鼓吹していた。でも、ある時、気がついた。俺は、誰かに、知ってもらいたくて、音楽を聞いてるんじゃなくて、誰にも、分かってもらえないから、音楽を聞いてるんだ、と。

 

 

 

 

それからは、あまり、人に音楽を勧めるのをやめた。自分だけが分かれば良いと思った。

 

 

 

 

 

だが、その女性は、音楽を勧めてきた訳では無く、音楽を教えてほしいという思いには、自分の音楽世界を広げたいという、明確な理由があった。だから、あの時、僕が、ああ言ってしまったのは、単なる、行き過ぎた身勝手な自己主張に過ぎず、それゆえに、自分はまだ、若い、と言わざるを得なかった。

 

 

 

 

次の日、謝罪の意味も込めて、自分の好きな洋楽の中から、その人に、合いそうなものをいくつか選んで、送った。昔は、よく、こうして、好きな人に、好きな音楽を送ったものだ。自分を知ってほしくて、必死だった。ノスタルジックが、埃のかぶった音楽と共に、イヤホンから、漏れていた。気に入ってくれると、良いのだけれど。

 

 

 

 

 

益体も無い日々だから、些細なことが、いつもより、鮮明に見えてしまう。日常の機微に囚われて、いらぬことも考えてしまう。すさびに任せて、無思考で、プカプカと生きようとすればするほど、深く沈んでいってしまう。

 

 

 

 

櫻の花弁が、少しずつ、色褪せ始めた。春の日差しが、膝に落ちて、泥のついた足を照らしている。

 

 

 

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追伸

 

OLちゃんいつも読んでくれてありがとう。