Everythingを引きずって

 

一週間ほど、実家に帰っていた。

 

 

 

昔家族でよく行った回転寿司屋がいつの間にか更地になっていたり、ラーメン屋のシャッターが閉まっていたり、寂れた街は、ちょっとした時間の風を、真に受けていた。通学路にあるラブホだけが、あいも変わらず、眩いネオンの光を放っていた。

 

 

 

 

車窓を流れていく、灰色の風景は、センチメンタルというには、あまりにも乾いていて、ノスタルジックというには、あまりにも、冷たすぎた。

 

 

 

 

お袋の作った料理を食べ、親父とともに釣りをし、弟とサッカーをした。

 

 

 

 

そこには、確かに自分の椅子があった。あの時と変わらない、椅子があった。でも、何かが違った。

 

 

 

違和感を片手に、夕闇の公園でブランコを漕いだ。寂れたピンク色の、訳のわからないキャラクターがイラストされた、懐かしいブランコ。

 

 

 

誰もいない空に向かって、目一杯に足を伸ばした。バカみたいに。アホみたいに。ポケットから、煙草の箱とライターが落ちて転がった。

 

 

 

 

砂埃のついた煙草を拾い上げ、火をつけた。あの時の「俺」は、もう、そこにはいなかった。

 

 

 

帰りの飛行機が離陸する瞬間、心だけが、体から剥離するような感じがした。ピカピカの小説を照らす昼の光を睥睨しながら、もう少し、惜別の念を示せばよかったと、後悔した。出発ロビーのギリギリまで見送ってくれた家族に。風化していく故郷に。俺はまた今度も大事な忘れ物をしてきてしまった。

 

 

 

 

街に戻ってきて、最寄りの駅を出ると、仮借ない夏の日差しと、トレモロのような蝉の鳴き声が、呵呵として、押し寄せてきた。

 

 

 

 

懐かしい感じがした。熱を帯びたアスファルトにサンダルを下ろすたび、一歩ずつ、「俺」が、戻っていく気がした。方向も定まらないほど、ひどく頼りない、歩行に、忘れかけていた孤独を噛み締めた。

 

 

 

白い点線を超えて、向こう側に渡りきったとき、二つの点の間で、揺れていた虚像は、一つの実像を結び、夕焼けの空にそっと、影を落とした。それは、ひどく脆弱な影だった。ちょっと風が吹けば、消し飛びそうな、蝋燭のようだった。

 

 

 

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明日で22歳になる。

 

 

 

母の「彼女できた?」という言葉がいよいよ、憂いを帯びたものになってきた。

 

 

 

そろそろ、妥協を知る時なのかもしれない。俺は、どうしようもなく乳が揉みたい。どうしようもなく腰を振りたい。

 

 

 

隔靴掻痒の恋愛はもう疲れた。だが、乳を揉ましてくれそうな女子も、周りにはいない。もうこうなってくると、大枚叩いて、チープな光の中、虚しく乳を揉みしだくという活路になってくるが、それでは、ますます母は慟哭することだろう。

 

 

 

アホくさい青年だ。難しい言葉を使って、インテリぶっていても、皮を剥げば、ただの勃起猿。たくさん本を読んで、たくさんの言葉を知った。だがそれと引き換えに、多くのものを、喪った。普通が何かわからない。でも、きっと、普通の人なら、手にしていたであろう、普通のものを。今となっては、その普通が、俺にとっては、虹の上を歩くがごとき幻想に成り果てている。

 

 

 

毎夜、どうしたって届かない女のケツを追いかけ、くたびれた精子を吐き出しては、換気扇の下で紫煙に包まれる。危機感は、倦怠感と惰性に塗りたくられ、油まみれの顔で、清潔感に唾を吐く。

 

 

 

 

家族、乳、滂沱、😂、CH4、ソーシャルディスタンス、漫湖etc。

 

 

 

 

そんなEverything(全て)を引きずって、俺は、明日、また一つ歳をとる。

 

 

 

 

 

おわり。