会社入って5kg太った

グ〜〜〜という自分のお腹の音でハッと我に帰り、時計を見る。朝からずっと楽譜を書いていた。底にコーヒーのカスが凝り固まったコップを無意味に振ってみる。もちろん何も起きやしない。外は雨が降っている。しわくちゃの布で指板の上を拭き取って、マンドリンをケースにしまう。もう2年以上入れっぱなしにしている乾燥剤を見て、さすがにそろそろ買い換えるかと思う。イケガクの通販サイトを開き、乾燥剤と爪やすりを購入する。あっという間に沸いたお湯をカップ麺に注いで、割り箸を重石代わりに蓋の上におく。


ここ2ヶ月ぐらいは、ひたすらマンドリンを弾いていた。会社の帰り道、駅のホームで見かけた大学生くらいの青年が背負っていたピカピカのギターケース、その後ろ姿を見たときに、とある光景がフラッシュバックした。思い出したのは、サークル帰りにママチャリを押しながら友達と家に帰るだけのなんの変哲も無い景色だった。京葉線のスタンドバイミーみたいな踏切と、閑散としたみどり台駅と、バカでかいナンと猫がいるカレー屋と、俺は街の景色を思い出していた。快速電車が過ぎていく、ピカピカのギターケースはいつの間にか見えなくなっていた。思い出した景色が焼き付いて離れなかった。空には朧月が浮かんでいた。

電車の中で「成功哲学」の自己啓発本を読むマザコン顔のメガネ男を睥睨しながら、心の中で「くっだらねぇ本読んでんじゃねぇぞ空っぽインテリが」と罵る。だいたいいつも思うのだが、この類の本を読んでいる奴は、なぜかブックカバーをしていないことが多い。おそらくツイッターの自己紹介欄をびっしり書くタイプだろう。何がMBTIだよ。こちとら枠にハマりきらねぇキチガイなんでぇい。舐めんじゃねぇぞクソガキが。北海道カンフーではっ倒すぞ!!チャッ!チャー!チャー!にゃああああああ!!!マジでよ!なんでみんな、そんな急に社会人になった途端大人ぶるんだよ。チキチキボーンで喜んでたあの頃を思い出せよ。ワインなんかファンタと一緒なんだから。

会社に入って5kg太った。ストレスとか、育ち盛りとか、まぁ理由は色々あるのだろうけど、煙草をやめたのが一番デカイかもしれない。「快楽の穴を埋めるのは快楽しかない」とカントが言っていたように(多分言ってない)、ニコチンホールの穴を埋める為には、gluttony(暴食)の大罪を犯すしかなかったのだろう。もう煙草をやめて半年以上が経つ。あんなに美味かったはずなのに、最近は喫煙者のオッさんの激臭に鼻をつまんでいる。マジでうんこの匂いがする。コーヒ、加齢臭、煙草、、、この世の終わりである。映画を見ながら砂糖まみれのドーナッツを牛乳で流し込む。これぞプロレタリアの革命、新しい世界の夜明けである。砂糖菓子の弾丸は誰にも止められない。

※ニコチンホールとは、ニコチンが切れた時に喫煙者の脳みそに発生する空虚感、虚脱感をさしていう筆者の造語である。ニコチンが補充されると、ハッピーハッピーハッピーハピハピハピハピーという陽気な音楽と共に穴が塞がっていくのである。まことに滑稽の極みである。

いやはや失敬、話が逸れた。俺はピカピカのギターケースを背負った青年を見て楽器を触りたくなった。もう一回、本気で音楽に取り組んでみたくなった。なんで、たかがそんな景色でそんなことを思ったのかは分からないが、過去の自分に、胸を張って「これが未来の俺だぞ!」と言えるような自分になれていなかったからかもしれない。しょうもない女のケツを追いかけたり、化石燃料を無駄遣いしたり、この一年俺は自分を見失っていた。気づけば周りに誰もいなくなっていた。結局音楽なのである。いつまで経っても俺は音楽にすがりつくのである。

ちっぽけな決意と大層な覚悟を抱いて、俺はケースからマンドリンを取り出した。もう見失わないぞと、と自分に言い聞かせながら、下手くそなトレモロを奏でる。頭に焼き付いて離れなかった景色に再スタートの意気込みを込めて曲を書いていく。誰がなんと言おうが、どれだけ斯界から無視されようが、自分が自分でいられなくなったら生きている意味なんてないのである。桜なんて見なくていい。友達なんていなくていい。仕事もしなくていい。俺には音楽がある。(←!!!!仕事はしろよ!!!!)

おわり。

渦の中

六ヶ月マッチングアプリをやって会えたのは3人だけだった。どうしたってもう何も言い訳ができないほどに、自分には価値がないないことが証明された。最後に会った女はじゃが芋みたいな顔をした太った女だった。女は、安っぽくて甘ったるい、最低な匂いを漂わせながら、「昔マンドリンをやっていたんです」と言った。カウンターの中でいちゃつく店員、マフィアの血でも混ざっていそうな蒸留酒と、のびたパスタ。俺はイライラしていた。隣に座っている女を蹴り殺してやりたかった。「お前はなんで生きている!」と耳元で叫んでやりたかった。殺してやりたかった。春の風が吹いていた。ベビーカーを押しながら笑い合う自分よりも歳が若そうな夫婦。人生はデキレース。初めから全てが決まっている。そんな気がしてならない。こんなかっこ悪い25歳になっていると思わなかった。もっと活き活きとして、キラキラとした大人になれると思っていた。

OLちゃんのブログが消えていた。いつも何かにイライラしていたOLちゃんだったが、最近は特にご乱心で、正直俺にはもう理解できない不幸の次元に達していた。もう5年くらいは読み続けた気がする。新聞を読むのとおんなじ感覚で、毎朝OLちゃんのブログを読んでいた。面白いとか面白くないとかじゃなくて、無意識の習慣になっていたと思う。俺は他人の書いたブログや日記の類を読むのが大嫌いで、十把一からげで本当にくっだらねぇなぁと思っているのだが、なぜかOLちゃんのブログは読めた。また書いて欲しいとも思わないし、こんな場所に戻ってこないで、幸せになって欲しい。毎日を這い蹲りながら、泥臭くも必死で言葉を紡ぐ君は素敵だった。バイバイ!!!

さて、最低と最悪の渦の中で、今日も歯を食いしばって立ち続ける。今年のテーマは「ガラパゴス化」。如何にかこうにか、騙し騙しで生きていこう。それでいい。嫌になったら逃げればいい。

うっすいカツ

 

夕焼けは太陽が沈む時に空が赤くなる現象で、小焼けは太陽が沈んだ後に空が赤くなることをいうらしい。仕事帰りに電車の中から見る空の色は、子供の時に友達と遊んだあとに見た空の色に似ている。「今日の晩飯なんだろう」とサッカーボールを蹴りながら、弟と一緒に公園を後にする。できたての揚げ物、コップに入れた麦茶を一瞬で飲み干して、もう一度注ぐ。親父が缶ビールをあける。時速36km、「夢を見ている」を聴きながら、流れていく夕焼け小焼けをぼんやりと見つめていた。

最近、嬉しかったことは、レッチリのライブに当たったこと。youtubeにあげた演奏動画に外国人が「omg this is sooo beautiful I love your cover!! Thank you❤️」とコメントしてくれたこと。仕事終わりに空を見る余裕ができてきたこと。

一年働いて200万貯めた。女も友達もいないので、金だけは溜まる。休日の昼に寝間着のままコンビニに飯を買いに行く時にたまに悲しくなる。おんなじように、コンビニきている人間は、ずっと日陰で生きてきたような、暗い目をした奴らばかりだ。チビだったり、デブだったり、ハゲだったり。。。コンビニで買った大盛りのペペロンチーノは不味くて、油まみれで、下品な味がした。俺たちが一体君たちに何をしたというのだろうか。ただ生きているだけなのに忌み嫌われる。どうしても最後の一口が食べれなくて、そのままゴミ箱に捨てた。

平日の昼飯は、会社の食堂で食べている。500円もするくせに、大して美味しくなくて、そのくせ、配膳してくれる厨房のおばさんや姉ちゃんたちの愛想がない。たまに、麻婆まぜそばみたいな、ちょっと変わり種の飯が出るが、大半が、うっすいカツ、パンチのないラーメン、スキー場のカレーといったかんじ。朝と夜は寮の食堂。こちらは2食で500円と破格の安さなので文句はない。美味しくはないが、厨房のおばさんたちは元気なので、まだ救いがある。マジで最近思うのだが、暗い人間に幸せは絶対にやってこない。だからと言って元気に振る舞おうとすると自分が死んでいく。

柔らかい風が吹いている。春のかぜだ。お腹をいっぱいにしたあとの、外の空気は本当に気持ちが良い。ゆっくりと歩きながら少し体を伸ばす。もういいなぁ〜この人生。

 

https://youtu.be/lwXoi5sTPqI?si=j5T7N5TadpQYXMXO

 

音楽における”景色”が見えるとは?

 

「ピアノの横で待っています」

 

 

改札を抜けて、あたりを見渡す。雑踏の中にポツンと置かれたピアノ、その横に立ち尽くす一人の女性。紺のロングスカート、白のパーカー、ブラウンのコート。髪は後ろで一つ結びにし、肩から掲げている小さなバッグが蛍光灯の光を受けて薄く輝いている。

 

「〇〇さんですか?こんにちは」

 

「あ、こんにちは〜」

 

女性は、揉みほぐしたような、柔らかな関西弁で挨拶を返すと、「じゃあ、行きましょうか」といってゆっくりと歩き出した。「こっちですね」と言いながらさした指が白くて細長い。「保育園の時からピアノをやっていて、、、、」。電話口で話した言葉が脳内を抜けていく。「心の病、精神疾患を持った患者さんのリハビリをしていくのが作業療法士のお仕事です」。鉛色の空を見上げながら、「雨降らないといいですね」と女性が呟く。「多分大丈夫ですよ」とテキトーなことを言う。鳥たちが群れをなして高層ビルの間を飛んでいく。道端に落ちていたアメスピの空き箱が、気だるそうな顔でこちらを見上げている。

 

 

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コーヒーを片手に席についた。自然公園の一角にある一面がガラスで囲まれたカフェは雑多な年代で賑わっていた。萎れた観覧植物、木材と暖かな照明、ところどころにあるアウトドア製品はグラッピングを連想させる。

 

「25歳か。これから色々楽しい年齢ですね。お仕事にも慣れて、新しいコミュニティにも入って、、、、」

 

5歳上のその女性は、やけにしみじみと、空中に浮かんだ25という数字を見つめていた。数秒の間があった。

 

「今、昔のこと色々なんか思い出してました?」

「うん笑。ちょっと」

 

知りもしない人間の記憶にないはずのシーンや景色や言葉が頭の中を抜けていく。隣り合って座ったため、相手の顔がよく見えない。頑張って体をひねったら、女性の目元が星みたいにキラキラしていた。砂の上に宝石を散りばめたみたいな鮮やかな化粧だった。

 

 

コーヒが冷めて、公園を散歩した。昔飼っていた犬の話、兄弟の話、音楽の話。

 

 

「わたし、ちゃんと音楽が好きで。音楽だけは本当に大好きで。ずっと続けている。江川さんはどんな音楽が好きなんですか?」

 

 

坂道を登りながら、女性はそんなことを言った。風船を持った小さな男の子が元気な声を出しながら猛烈な勢いで走っていく。毛並みの綺麗な野良猫が木を登っていく。好きな音楽を共有する。それは同じ景色を共有するということだ。音の先にはいつも素晴らしい景色が広がっている。二人は一緒に坂道を登りきった。

 

「私、ちょっと疲れちゃったな笑。こんなに歩いたの久しぶりかも」

 

小さく白い息を吐きながら、女性はそう言った。街並みの先には海が見えた。

 

「あの大きな橋を渡るときね、最初にトンネルを抜けなきゃいけないんだけど、最初は何も見えないんだけど、そのトンネルを抜けた瞬間の景色が本当に綺麗なんですよ。もう本当にドッカーンって感じで笑。」

 

目一杯に手を広げたジェスチャーで、「ドッカーン」を表現した女性は、コンクリートみたいな不機嫌な空の下で、ドーナッツみたいな柔らかい笑顔を浮かべてみせた。

 

「なんかいっぱい歩いたら、お腹すいちゃったな。今日は節分だから、恵方巻きを買って帰ろう。あと明日の朝に食べるパン」

 

 

恵方巻きを頬張る女性の姿を想像して俺はちょっと勃起した。

 

 

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茶色の紙袋を掲げた女性に別れを告げて、イヤホンを耳に差す。駅に置かれたピアノの横で、若い男が誰かを待っている。旋律が始まって、記憶が逆再生されていく。音楽における”景色”とは、思い出の中にある幻想だ。女が男に声をかけ、二人は公園に向かってゆっくりと歩いていく。今日という日も、あの日のことも、いつの日か、私たちの現在は全て客観性を失って、音楽の中で幻想になっていく。

 

 

 

 

おわり。

 

 

 

 

 

 

youtu.be

 

 

 

 

 

ハイライト2023

 サイドミラーと右後ろを確認し、アクセルをひねって前に出た。アナログのタコメータが一気に跳ね上がる。凍てつく師走の風が上着を貫いて肌に突き刺さる。シフトダウンをして体勢を少し左に傾ける。どう読むのかわからない地名の書かれた看板が後ろに過ぎていく。もうどれくらい走ったのだろう。知らぬ間に随分と遠い場所に来た。バイパスを下りて、閑散とした誰もいない海水浴場のそばにバイクを止めた。倒れかけの「通行止め」と書かれた立て看を避けて砂浜に入っていく。潮風といよりは、死の風というような、冷たい風が波とともに、打ち付けては消えていく。沈みかけの太陽が水面にパラパラと柔らかい光を落としている。静かで乾いた景色の中で「なんか疲れたな」と独り言を呟いた。ソナチネみたいな水平線に、ひっそりと太陽が沈んでいく。ひっそりと年が暮れていく。

 

 

 

ブンブンハローユーチューブ。というわけで、みなさまいかがお過ごしでしょうか?私は先日、仕事を納め、実家に帰り、特にやることもないので、音楽を聞きながらこの駄文を書いております。いよいよ2023年も終わりですね。あなたにとって2023年はどんな一年だったでしょうか?飛躍の年?幸せの年?悲しみの年?いつも通り? こんなことを聞かれる度にいつも私はこう思います。「色々あったけど、プラマイしたらゼロになっているのではないか?」と。。。パチンコの収支も、長い間つけていたらゼロになっているように、カラフルな色を混ぜ合わせても最終的には黒っぽくなっているように、なんだかんだ行き着く先はいつも同じなような気がします。というか最近は、一年を振り返ろうにも、脳のメモリが減って、思い出せることが少なくなっているような、そんな気がします。

 

 

 

さて、くだらない前置きはこれくらいにして、早速いきましょう。俺、私より、しょうもない一年を過ごした人間もいるんやなぁ〜と憐れみの目で読んでいただければ幸いです。

 

 

1,労働

暗くて長い「トンネル」を抜けた先に待っていたのは連綿と続く果てしない「労働」でした。

 

元々、理想や希望、向上心からはもっともかけ離れた「諦め」の気持ちで就活をしていた自分だったので、現実に愕然とすることはなかったです。ただ、実際に社会の歯車となり、日常とハートをすり減らしてみて、やはり、労働はうんこマンだなーと思いました。できるのであれば、働かないで生きていきたいなと本気でそう思いました。こないだ、父親が、可愛い猫特集!みたいなテレビを見ながら、「猫はいいよなぁ〜何も考えなくていいんだから、、」とぼやいていましたが、本当にその通りだと思いました。

 

 

一日、一日のダメージはそれほどでもないのですが、同じポイントを的確にジャブで攻めてくるのが本当にウザいです。マジでうんこマンです。嫌な業務は山ほどありますが、その中でも特に嫌いなのは、上司にハンコをもらいにいくことでした。なんなんすか、ハンコってwwww。水戸黄門かよwwww。時代は令和ですよ。チャトジーピーティに笑われますよ。あと、たまにいる挨拶しても返してこない社員って、あれなんなんですか?心のノート履修してないんですか?ぶん殴っていいですか?んダメぇーーーー!シネぇーーー!!!いつか絶対に殺してやるからな、、、という怒りのエネルギーが私の働く原動力になっています。

 

 

ただ、どんなに嫌なことがあっても、お金は貰えますからねぇ。だからこそ、文句を言いにくいというか、金さえ渡しておけば、何してもいいと思ってそうなのが、心底ムカつきます。まぁお金が増えるのは愉快ですね。ただ個人的には、貯金よりも、お金をどう使うか?みたいな方が、よっぽど難解で、センスが問われているような気がします。こないだ僭越ながらヘソクリみたいな額のボーナスを頂いたのですが、何に使うか、悩みに悩んだ末、なぜか僕は、プレステーション2を買ってしまいました。子供の時にやったゲームソフトが無性にやりたくなって、プレイしてみたんですが、ラスボスにたどり着かずに、頓挫。あの頃は、一緒にやる友達がいたから、楽しかったんだなぁと、一人部屋で悲しくなりました。カエデ君。今何してるんだろうなぁ。元気かなぁ。年を取るたびに悲しくなる。年を取るたびに友達が減っていく。。。。ほんと、うんこマンですね。。。。

 

 

2,婚活

恥ずかしながら、わたくし、この度、婚活を始めさせていただきました。某有名マッチングアプリに登録し、3ヶ月ほどプレイさせていただきました。結論から申しますと、、、、彼女はできませんでした!!!!。なので、全てを破壊させていただきます。え????くらえ!!!暗黒破壊呪文!!!ブラックサンダーボルト!!!!!(遊戯王の声で、、、)。

 

突然の無視、ブロック、会話の一方通行、ドタキャンetc、、、イライラばかりで、何も楽しくないのに、それでも辞めない、人間の滑稽さと惨めさ。そこはまさに、血で血を洗う戦場でした。一旦、自分のことは棚にあげておくとして、人格や品性を疑う人間の多いこと(お前がいうな!!

 

また、韓国好きの多いこと多いこと、、少女時代とKARAしか知らないおじさんの私からすると、ほんま意味不明。。。なんやねん、NIZYUって。カンナムスタイルでも聞いとけボケ!映画館行きました!のノリで韓国行きました!って書くな!網走刑務所に行ってこい。ロックバンドが好き!と書いてるけるど詳しく聞いてみたら、YUIあいみょんぐらいしか聞いてなくて、レッチリストロークス好きです!って言ったら無視されるし、、、、、もうなんか疲れました。。。くらえ、ウルトラブラックサンダーボルト!!!

 

3,バイク

 

今年の夏頃に二輪の免許を取り、バイクを購入しました。間違いなく人生で一番高い買い物でした。エアコンがないので、夏も冬も地獄だし、音もうるさいし、臭いし、ヘルメットつけなきゃいけないし、どう考えても、車の方が便利で安全なんですが、全ての不便を上回る、走る楽しさとロマンがバイクにはありました。色々な景色を見に行きました。見に行きたい景色も増えました。間違いなくバイクは私の世界を広げてくれました。たとえ、嫌なことがあっても、アクセルをひねれば、たいていのことは忘れることができました。来年も一緒にいろんなところに行こう!いろんな景色を見に行こう!奥田民生くるりを流しながら、のんびりとどこまでも走って行こう!窮屈な町並みと、頭が良いだけのインテリどもはほっておいて、どこまでも走って行こうぜBKB!ヒィーーーーーイィえ!!

 

 

今年撮った写真の中で一番好き。ブランコ漕いでる男の子がかわいい



てな訳で、ここら辺でおわりにしたいと思います。最後まで読んでいただきありがとうございました。総括すると、なかなかしんどい、うんこマンな一年でしたが、来年もボチボチ頑張って行こうと思います。それでは皆さん、良いお年をお迎えください。来年もよろしくお願いします。

 

 

 

おわり。

日曜の夕方

 

昼下がり、さすがに腹が減ってきた。朝から何も口にしていない。ギターをケースにしまい、パジャマの上に黒のウインドブレーカーを着て外に出る。お散歩日和のいい天気だった。信号を待っていると、ドライブデート中のカップルが見えた。黒い大きな車だった。男の方はわからなかったが、女の方はそこそこに可愛かった。4日連続でシコったからか、頭がぼんやりしていた。「めちゃくちゃセックスするんだろうなぁ」寝癖まみれの後頭部をポリポリと掻きながら、そんなことを思った。鮭、明太子、鳥五目の三種類を買ってコンビニを後にする。信号を待つ。ふんわりとした暖かな日差しが降り注ぐ。目の前を車が通り過ぎていく。ちょっと歩いただけなのに、なんだかもう疲れてしまった。

 

 

女からの連絡は途絶えた。唯一と言っていいほど、好意的に接してくれた人だった。失恋というほどの衝撃はなかったが、それでもやっぱり少し落ち込んた。俺は、どうしてこんなにダメなのだろうか。ため息すら出てこなくて、ただひたすらにギターを弾いていた。どこにも吐き出せない、誰にも言えない心の翳りをメロディに乗せて、誰も聞いてくれない歌を作り続けていた。いつのまにか日が落ちていた。部屋が真っ暗になっていることに気がついて、電球をひねった。一人暮らし7年目。日曜の夕方はいつも物憂げだ。

 

 

 

三日ぶりに髭を剃る。鼻毛を刈り込み、眉毛も整える。部屋も掃除した。洗濯物も畳んだ。食器も全て洗った。ゴミもまとめた。罰を受ける前の囚人が身辺を綺麗にするのと同じように、あらゆる物事を整理していく。嬉しいも悲しいもなくて、ただ生きている。いつか死ぬときも、きっとそんな感じの気持ちなのかもしれない。

 

 

 

風呂上がりに缶コーラを飲みながら、何も映っていない真っ暗なテレビの画面を見ていた。嬉しいも悲しいもなくて。ただ生きていた。

 

秋に落ちていく

 

柔らかい太陽の光が地面に落ちていた。いつの間にか夏が過ぎ去り、季節の色が変わっていた。秋はいつも、落ちていく。汚れたスニーカーでくしゃくしゃになった落ち葉を踏みつけた。冷たい風が顔に吹き付けて、顔をすくめた。春は来る、夏は過ぎる、秋は落ちていく。

 

 

アプリで知り合った女性と初めて会う。不思議と緊張はなかった。電車に揺られながら静かな音楽を聞いていた。

 

 

改札を出て、黄色の服を着た女性を探した。この駅はいつも外人でごった返している。スマホ片手に、少し不安そうな顔を浮かべながら、辺りをキョロキョロしている女性がいた。一目でわかった。写真の女性だった。声をかけた。女性は少し頬を緩ませて、会釈した。秋に溶け込みそうな穏やかな黄色の服だった。

 

 

ヒールのコツコツという乾いた音が秋の空気を震わせる。歩くスピード早いですか?と聞くと、女性は「これが限界です」と言って笑った。少し速度を落として、ゆっくりと言葉を探していく。目的地の洋食屋まではまだ距離がある。「北海道って、訛りとかあるんですか?」。なまらあるで!と思いながら、「いや〜そんなないですね〜」と真っ赤な嘘をついた。いっそのこと東京生まれ東京育ち生粋の江戸っ子という設定にして、べらんめえ口調で喋ればよかったかもしれない。てやんでい!何が北海道弁なのかも、もう忘れてしまった。

 

 

小洒落た洋食屋のカウンターに座って、オムライスを注文した。1200円の割には正直、味は普通だったが、この際そんなことはどうでも良い。ネジが外れたキチガイということがバレないように、極力自分のことは喋らず相手に話題を振った。友達から見てどんな性格と言われることが多いですか?という堅い質問をしてしまい、「面接ですか笑」と笑われた。「理系の人って、研究室が大変って聞きますけど、どうでした?」。封印したはずの記憶の引き出しが開いて、色々な思い出が蘇ってきた。その全てを飲み込んで、「特に何もなかったですね。強いて言えば、人との関わり方を忘れました」と答ええた。女性は、少し、顔を顰めながらも笑ってくれた。

 

 

このくらいの出費、痛くもかゆくもないですよ〜とカッコつけた顔で、スマートに会計を済ませ店を出る。「お腹いっぱい」と言いながら、手持ち無沙汰にスプーンを動かす、その打算的なのかナチュラルなのか判別つかぬ動作に、少し可愛らしさを覚えた。

 

 

俺は飯を食ったら帰るつもりだったが、女性が「おまつりやってるんで行ってみません?」と言ってくれた。断る理由もなく、連れ立ってまた歩き出した。いつもより少しゆっくりのスピードで。いつもより少しおしゃれな格好で。今日初めて会った人と慣れない街を歩いていた。

 

 

屋台を歩き回っていたらいつの間にか、人気のない場所にでた。「ちょっとあそこのぼってみません?」。女性はヒールで、ボロボロの苔の生えた階段を登っていく。小高い丘の上は景色がひらけていて、歩いて来た街を見下ろせた。「思ったより綺麗な景色じゃない」。そう言って二人で笑った。どの口が言ってんねんという感じだが、変な人だな〜と、そう思った。その時、初めて、真正面から女性の顔を見た。冷たい秋の空と賑やか街並みを後ろ背に、黄色が似合うその女性は柔らかに笑っていた。汚れたスニーカーでくしゃくしゃになった落ち葉を踏みつけながら、胸の高鳴りを誤魔化した。秋はいつも落ちていく。人はいつも秋に落ちていく。

 

 

 

そのあと、喫茶店で軽くお茶をして解散した。家に帰り、お礼の連絡を入れようとラインを開くと、先に女性から連絡が来た。秋に落ちた。部屋には冷たい隙間風が吹いていた。

 

 

 

おわり。